12/05 16:55 柘榴の実 (光秀と秀満)



 柘榴は冥府の実だと嗤って、目の前の男は投げて寄越す。
赤く黒く実った冥府の実はがぶりと齧れば酷く残酷な事でもした気になる。それはきっとこの中の実や種子の所為だと心中で愚痴る。

「そんな顔で喰うんじゃない、こっちまで食欲が無くなる」
「冥府の実ならば、これを食べた我らはもう極楽には行けませんね」

 嗤えば「確かにそうだ」と目の前の男は納得したように嗤って返した。
がぶり、とまた一口齧る。前に読んだ南蛮の書物にも柘榴の話が載っていた。それは確かこうだ。
 冥府の王に攫われた女は冥府で柘榴を口にした。その為向こう一年のうち一定期間を冥府で過すこととなり、女の母はその期間嘆き悲しむことで冬になったという。
時に柘榴は人肉の味に似ているという記述を目にする。その色や果汁の赤さの所為なのだろうが柘榴を食べる様はまるで鬼が人を喰らうている様に見えるのではないだろうか。
 ならば我らは?国を根絶やしにする事がある。柘榴を食べていても、いなくてもそれは鬼の所業なのではないだろうか。 

「極楽へ行きたいのかよ」

 嗤っていた男、秀満が急に真面目腐った顔をして聞く。

「行きたいか行きたくないかで言えば行きたいでしょう。誰だってそうです。喜んで地獄に行く者などいませんからね」
「嗚呼、」

 光秀は続ける。ぞんざいな物言いで秀満は「そうだな」と続けて残りの柘榴を食べた。

「けれど私たちは死ねば地獄へ真っ逆様でしょう。血塗れの掌で必死に懇願し、返り血で染まった顔で仏の迎えを待つのですよ」

 殿の命令だとはいえ何人も殺し幾つもの村や国を根切った自分たちが極楽へ行けるわけなど無い。真っ赤に染まった柘榴の様な私たちを迎える極楽など三千大千世界を回ったとしても見つかりはしないだろう。

「それでも俺は兄貴に付いて行くぜ」
「お前は本当に物好きだねえ」

 嗤えば柘榴の枝がさわさわ揺れた。それが風であったのか、地獄からの迎えの声か誰も知らない。


(了)




zerone Chien11



-エムブロ-