どん、と大きな音がした時、驚いたイーブイは飛び上がってすぐさまテレビの裏に逃げ込んだ。それをキルリアが追って優しく声をかける。
 ソファーで眠っていたもう一匹のイーブイは目を開けて大あくびをして、そのふさふさの尾に顔を埋めていたロコンは顔を上げてきょろきょろしている。
 モココはのんびりと壁を見遣った。お隣の部屋の壁に誰かがぶつかった時の音と良く似ていたからだ。

 音が消えて暫く、テレビ裏からそっと顔を出したイーブイは辺りを伺う。それに近付いたキルリアが優しく鳴いて、自分から出て来るに任せるべく側に座った。特に臆病な性格である事はみんな知っていたし、安全を確認するまでは出て来ないのも解っていたからだ。

 ポケモンたちの様子にも音にも構わず、人間はキッチンカウンターでタッパーに焼きそばを盛っている。たまにしか身に着けない浴衣のせいで動きづらそうに、少々慌てながら紅生姜を添えていた。
 またどんと大きな音がして、モココは何事かときょろきょろした。音の出所が解らず床に座っているリオルに視線を送るが、リオルも落ち着かない様子で耳と房をぴくぴくさせている。この中で誰よりも耳が良いリオルにも解らないらしい。

 出来た、急いで出るよーとタッパーを閉めた人間が漸く顔を上げて、それから可笑しそうに笑った。戸惑っている理由を知っていて笑っているのだから人間も大概意地悪だ、とモココは呆れた視線を送る。そんな視線などどこ吹く風、人間はこれお願いねと、楽しそうな声音でリオルとキルリアとモココにそれぞれタッパーと水筒とレジャーシートを手渡し、テレビ裏に隠れたイーブイを迎えに行った。





 怯えたイーブイにしがみつかれながら、人間はアパートの扉を開けた。モココたちが通路に出るとそこには見知ったアパートの住人たちが居て、レジャーシートや簡易椅子に座っている。その顔は皆一様にわくわくとしていた。
 ぱっと、空が明るくなって、アパートの皆が空を見上げた。モココたちも驚いて見上げると、夜空で光の花がきらきらと散って行くところだった。少し遅れてどんと音がするが、原因はあの綺麗な物だともうわかった。もう気にする者は……ふと見上げてみると、イーブイが人間にしがみついて、ぎゅっと顔を伏せていた。せっかくの綺麗な空を見れないイーブイを、人間が優しく撫でながら「大丈夫」と宥めている。
 モココはふっと笑ってレジャーシートを広げてあげる事にした。