ヒビキを見送って今度こそウツギ博士を訪ねた俺は、コトネの家へ向かっていた。ウツギ博士いわく、

「僕トレーナーとしてはまったく才能ないんだよね。だからお隣のコトネちゃんに教わっておいで」

 だそうで。そんなんでどうやって進化の研究してんだと突っ込みたかったが、博士は俺みたいな得体の知れない奴に御三家を譲ってくれる天才的なボケ……いや、奇特……もとい大変心優しい人だ。なんかこう、友情ゲットとか育て屋さんとか大人のコネとか大人のコネとか大人のコネでなんとかしてるんだろう。大人ってそんなもんだよな!

 それはいいとして、でもたらい回しってどうなんすか博士。

 あまりに適当な対応にちょっと遠い目になりつつ足を進める。
 実は研究所を出てからずっとコトネの家もヒビキの家も見えているから迷いようもないんだ。けど、その見えてるお隣さんが軽く200mは離れてるって。さすが田舎町としか言いようがないなぁ。老後を過ごしたいくらいのどかな場所だ。

 ぼけーっと歩いて5分程で到着したコトネの家の呼び鈴を鳴らす。ゲームでは不法侵入が当たり前だけど、この世界でそんなことしたらだめだと思う。確認はしてないけどさ、インターフォン付いてんなら使わないとな。
 リンゴーン、と教会の鐘のような音が鳴ると、中から2つの軽い足音がパタタパタパタと重なって聞こえてきた。そしてガチャリと開いた扉から青い球体が、かの有名な雑巾がスーパーボールのように飛び出してきた。

「りるる〜♪」

 元気ありあまってますと体全体で表現するように、ぴょんぴょん飛び跳ねながら俺の周りをくるりと一周した雑巾、もといマリルは扉を開けた主の腕に戻っていく。

「こんにちは、初めまして。あなたがリョウさんね」

 にっこりと小作りな顔が笑う。2つに結んだ重力無視のエクストリーム外ハネと某子猫ちゃんを彷彿とさせる帽子につい目が行ってしまいがちだけれど、コトネは文句なしの美少女だった。大きな瞳と桃色の唇、肌は淡くピンクがかった白で頬には健康的な朱色がさし、細すぎない手足がすんなり伸びている。

「そうです。初めまして、コトネちゃんにマリル。今日はよろしくお願いします」
「あ、えっと、そんなに畏まらないで下さい。私の方が年下ですからっ」
「うん、そうだね。じゃあ改めまして。よろしくお願いします、コトネ先生」
「え、えええ?」

 顔にありありと「改めるトコロが違う! って言うかよけい畏まっちゃってる!」と出ていた。ますます困惑するコトネを見ているのは楽しいけど、だからってからかい続けたら話が進まない。

「冗談だよ。よろしくな、コトネちゃん」
「あ、はい!」

 あらら、今度はコトネが畏まっちゃってら。

「コトネちゃんもさ、さんなんて付けなくていいよ。あんまり年変わんないだろ?」

 トレーナーとしてはコトネが遥かに先輩だと言うことはあえて口にしないでおく。プレッシャーになるだけっぽいし。

「んーと、じゃあ、リョウ、くん?」
「うん、なぁに?」

 何その恋人になったばかりみたいな可愛い呼び方! あんまりに初々しいんで突っ込みたかったけど我慢だ我慢。

「リョウくんはまだポケモンいないんだよね」
「ああ、借りた子はいるけど俺のじゃない。明日譲って貰う予定だよ」
「じゃあ取り敢えずバトルと捕獲のやり方教えるね。あとは……」
「食べさせたらまずいものとか、お風呂の入れ方とか、トレーナーとしての常識なんかが知りたいな」
「わかったわ。じゃ、行こっか!」

 弾むみたいに雑巾、じゃねぇ、マリルが腕から飛び出して町の外へ先導する。

「マリルって小さいのにすごく元気なんだな」
「私のマリルは特別元気なのよ。野生みたいにのびのび育ってるからね」

 そういやウツギ博士が連れ歩きの研究はじめたのってコトネが雑き……マリル……ああもう雑巾でいいや。雑巾を連れ歩いてたからなんだよな。この世界じゃある意味原点にして頂点なのかも。
 あ、でもそれ言ったらゲーフリはアニメのピカチュウ見てピカチュウ版作ったんだっけ。で、それを元に今作の連れ歩きになったんだよな。やっぱ原点はレッド、とサトシかなぁ。

「ね、リョウくんはもう貰うポケモン決めてるの?」
「ああ、希望はチコリータなんだけど」
「そっか、よかったね。きっと希望通りになるよ」
「え?」

 一瞬コトネがこの後の展開を、ワニノコが浚われるのを知ってるのかと驚いた。が、よく考えるまでもない。ヒビキに貰われたのがヒノアラシだからそれ以外なら貰えると考えたんだろう。
 そうだよな、そうじゃなきゃ怖すぎる展開になるよな。

「ヒビキくんがヒノアラシ連れてったから?」
「なんだ、もうヒビキに会ってたのね」

 良かった、ループ展開じゃなくて本当によかった!
 あ、いや、考えように寄っちゃループ展開って楽かも。未来を知ってるって楽そうだよなー。


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