二枚重ねの遮光カーテンの更に奥、壁と扉に遮られた風呂場は青系の涼やかな色で溢れていた。
 換気口からは涼しい風が吹き、半分ほど水で満たされた浴槽にシャワーズとグレイシアが遊ぶ。水の張られた金盥には果物と凍ったペットボトルが浮かび、よく冷やされている。

 水色の水着をまとい、空色の簡易椅子に腰掛けた人間の手には、クリアブルーの小さな水鉄砲があった。
 水の中でじゃれあう二匹は、はしゃいで冷気を吐き出し合う。威力の削がれた冷気は互いに極薄い霜を張るが一瞬のことだ。
 不意に二匹はその冷気を人間へ吹きかけた。霜が降るほどではなかったが、それは真冬の風よりも冷たい。

 人間は少しだけ身震いしてから、やったなーと笑って水鉄砲を発射した。
 シャワーズが喜んでぴゅうと水を吹き返す。グレイシアが弱い吹雪を降らせ、壁の一部に霜が張る。余波で壁に張られた青い星がこちりと凍り、粘着力を失って落ちた。
 水の掛け合いの間に冷気が吹く。二匹と一人は冷えた飲み物で喉を潤しながら、飽きることなく遊んだ。





 ──りぃんりぃんと涼やかな虫の音が聞こえる。狭い浴室とはいえ、涼しい場所で存分にはしゃいだ二匹は、腹がくちくなると一足先に寝室へ行き、設置された冷却シートの上で眠りについた。
 リビングのクーラーはすでに切ってあり、開いた窓からぬるい空気が部屋へ入り込んでいる。食事の後片付けを済ませた人間は浴室へ向かった。

 浴室の壁は小さな水色の星が剥がれかけ、大きな透明のハートが床に引っ付き、一枚しかない氷色のジュゴンは湯船に沈んでいる。
 その湯船は少しばかり濁り、すっかりぬるくなった金盥には細かな果物の破片が浮かび、辛うじて網の袋で纏められたごみはびしょびしょで、そのままでは捨てられない。
 それを見やって欠伸ひとつ、人間は楽しげな鼻歌だけをお供に片付けをはじめた。