半裸で森林を駆け回る俺を取り押さえたお嬢さんは、ポケモンを連れ歩く不思議少女だった。そして警察に通報するどころか上着を貸してくれた上に(とりあえずは)事情を聞いてくれる心優しい少女でもあった。
 お嬢さん(と言ったらもう16よ、あなたより年上だわ。と反論された)はポケモンレンジャーと言う職業で、ポケモンを使って悪さをする悪の組織の調査中に偶然俺を見つけたそうな。
 ここまで聞いて俺はふーんとしか言いようがなく、お嬢さん改めお姉さんは呆れたようだった。

 だってなぁ、子供の頃に夢中だったよポケモン。通信ケーブル親にねだった世代だよ、今現在10年ぶりくらいに出戻りプレイしてるよ。でもポケモンレンジャーは名前しか知らない。確か派生のゲームだったよな、本編でもトレーナーとして出てるけど、特に気にした事も興味もなかったのに、なんだってこんな夢見るんだろ。ヤケにリアルだし。
 明後日な思考が顔に出ていたのか、始終真剣な表情で説明してくれたお姉さんは怖い顔をなさった。

「ちょっと君! ちゃんと聞いてたんでしょうね?」
「しっかりお伺いしました」
「じゃあ今度は君の番よ。職質させてもらいます。取り敢えず名前は?」
「秋野諒(あきのりょう)、外見は半裸美少年ですが25才、職業は服飾販売員です」

 案の定訝しげな顔で「ふざけないで」と怒られた。しかし残念な事にふざけてないんだな、コレが。いや美少年の下りはふざけてたけど、そんくらいは許して欲しい。だって自分でも驚いた事に頭脳は大人、体は子供、その正体は成人男性となってたんですよ。
 うあー、バーロー超なつかし!一番最初のオープニングとか歌えちゃう世代だよ俺!

 お気楽な思考を神妙な顔の下に押し隠し、憤懣やるかたないといった風情のお姉さんへ話しかける。いくら夢とはいえやっぱ逮捕されたくないし。

「ふざけてませんよ。昨日まではそうだったんです」

 懐疑的な視線にも負けず、真剣な顔で真面目にふざけた事実を説明する。

「家のベッドで眠ったはずだったのに、目覚めたら森に倒れていたんです。子供の体になって、半裸にストール一丁で」

 真顔のまま緊張感のない要素を付け足すと、お姉さんは咄嗟に顔を伏せて噴き出した。やっぱ森で半裸ストールって場違いだよな〜。バラエティじみてる。
 こほんと咳払い一つ、取り繕って真剣な顔を上げたお姉さん。その雰囲気はさっきより少しだけ和らいでいる気がした。

「わかりました。とにかく同行してもらいます」
「はい」
「やけに素直ね。さっきは逃げようとしたくせに」

 だって熊かと思ったんだよ。なんて言うのは女性に失礼だろうな。

「野生のポケモンかと思ったんですよ。丸腰だったからやばいな〜と思って」

 丸腰どころか半裸だったじゃないと顔に書いてある。お姉さんてば結構ツッコミっぽいのに口にしないのは職務中だからだろうか。





 おもちゃのトランシーバーみたいな、カラフルな物体でどこかに連絡を入れるお姉さん。グライガーに見張られながら待っていると(しっぽで立ってる! なんだか可愛い)お姉さんの顔がどんどん険を帯びてゆき、何故か一瞬だけ沈痛そうな面持ちで俺を見た。
 嫌な予感しかしないけど、まぁ夢なんだし、とにかく聞いてみよう。

「どうしたの?」
「あなたには関係ないわ」
「仕事上の守秘義務?」

 頷いてしまえばもう俺は追求できないのに、お姉さんは少しの沈黙の後「今は教えられない」と言った。

「お姉さんの様子からするに俺に関係ある話じゃないか?」
「たぶんね。でも今はだめ。とにかく下山しましょう」

 その後はとにかく下山しましょうの一点張り無限ループで諦めるしかなかった。まぁ後で教えて貰えるみたいだし、何より変態じみた格好が辛かったので了承した。
 森じゃなく山だったんだ〜なんて呑気なことを考えていると、なにやらお姉さんが格好いいポーズ(後で聞いたらキャプチャーと言うらしい)をしてその辺の野生ポケモンを捕まえてきて、俺たちはすぐに麓──ヨシノシティの病院へ向かうことになった。


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